第5回 酒べ会 遊穂(東伏見・居酒家べっしゃん)

「べっしゃん」で,「遊穂」の御祖酒造の酒の会.藤田美穂社長と会うのは数年ぶり.
当日の料理は,玉こんにゃく,おまかせパレット(鴨肉・ポン酢で,平目の昆布締,イカ・レモンと塩で,鯨の刺身,甘海老,蛸,鶏のたたき,クリームチーズ,牛蒡),鮭とば・マヨネーズ掛け,おにぎり(じゃこと梅肉),サクランボ.
お酒は以下の通り.「遊穂」はかなりバリエーションを限定しているように思っていたのだが,海外向けや地元向けを含めて,着々と増えていたようである.「遊穂」は基本的に味重視で,出品酒である大吟醸だけが例外的に匂い系.特に良かったのは,山おろし純米と純米吟醸の火入れの米違いの三種で,山おろしは燗,純米吟醸は冷や(常温)と燗のどちらも良い.特に玉栄は美山錦ほど派手ではないが,滋味深い味わいで,熟成させるともっと旨くなりそう.逆に.山おろしと生原酒のマッチングはあまり良くないと感じた.基本的に生酛系は複雑な味わいを持ち,さらに互いに喧嘩しなくなってまとまるまで時間が掛かるので,鮮烈さを味わうための生酒には向かないのだろう(生熟燗はあるとは思う).

  1. ほまれ 大吟醸斗瓶取り 生原酒 仕込17号 兵庫県山田錦(40%) 9号酵母・10号酵母 20BY(石川・御祖酒造株式会社)
  2. 遊穂 純米吟醸 無ろ過生原酒 麹米:山田錦(55%)・掛米:美山錦(55%) 9号酵母 20BY 製造年月21年6月(石川・御祖酒造株式会社)
  3. 遊穂 純米酒 山おろし純米 無ろ過生原酒 麹米:石川県産五百万石(60%)・掛米:石川県産能登ひかり(55%) 9号酵母 20BY 製造年月21年4月(石川・御祖酒造株式会社)
  4. 遊穂 純米酒 山おろし純米 火入・加水 麹米:石川県産五百万石(60%)・掛米:石川県産能登ひかり(55%) 9号酵母 17BY 製造年月21年6月(石川・御祖酒造株式会社)
  5. 遊穂 純米吟醸 火入・加水 麹米:兵庫県黒田庄山田錦(55%)・掛米:美山錦(55%) 9号酵母 19BY 製造年月21年6月(石川・御祖酒造株式会社)
  6. 遊穂 純米吟醸 火入・加水 麹米:山田錦(55%)・掛米:滋賀県産玉栄(55%) 9号酵母 19BY 製造年月21年6月(石川・御祖酒造株式会社)…生原酒は国内販売しているが,火入れは輸出専用.ラベルも英語表記.
  7. ほまれ 純米吟醸酒 火入・加水 麹米:兵庫県黒田庄山田錦(55%)・掛米:石川県産五百万石(55%) 9号酵母 19BY 製造年月21年6月(石川・御祖酒造株式会社)…地元向け純米吟醸
  8. 遊穂 純米吟醸50 無ろ過生原酒 兵庫県黒田庄山田錦(50%) 9号酵母 19BY 製造年月21年6月(石川・御祖酒造株式会社)
  9. ほまれ 上撰(普通酒) 麹米:山田錦(65%)・掛米:地元産うるち米(70%) 9号酵母 18BY 製造年月21年1月(石川・御祖酒造株式会社)

以下に藤田社長との話をメモ.

  • 御祖酒造の現在の生産量は400石で,半分弱が「遊穂」.地元向けは年々減少しているとか.
  • 遊穂」と「ほまれ」の区別は,前者が純米酒,後者は地元酒・アル添酒らしい.ただし,「ほまれ」の純米吟醸を発売してからは,境界が曖昧になってしまったとのこと.
  • 遊穂」という名前は,横道杜氏に「出荷できないから早く名前をつけろ!」と急かされた藤田社長が,UFOが頻繁に来ると言われている土地柄から,遊び心を示す「遊」と稲穂の「穂」を組み合わせたもの.よく言われている「美穂」の「穂」というのはガセネタらしいが,横道杜氏はこっそり「美「穂」の夜「遊」び」から命名したという噂を広めているらしい(笑).
  • 藤田社長が「OL時代,毎晩お酒を飲みまくっていた」とか,「ワインに造詣が深い」とか,「料理が上手い」とか,「お酒が呑めるから蔵元を継いだ」という噂は全部ガセネタらしい(爆)実家は東京で,父親が名目だけの社長をやっていたところを,「物を造り出す」ことに興味を持って継いだだけとか.
  • 藤田社長が継いでから,「遊穂」が誕生するまでの謎の一年について聞いたところ,最初はフルネットの中野社長のプロデュースで「邑居(ゆうきょ)」という名前まで付けてもらい売り出すはずだったが,前任者の杜氏吟醸造りをしたことがなく「とんでもなくまずい酒」しか造れず,話は立ち消えになったとのこと.なお,中野社長と仲が悪いというわけでもなく,杜氏もかなりの高齢だったので勇退してもらったとのこと.
  • その「まずい酒」を持っていろいろな酒販店を回ったそうで,大塚屋に行った時には「またお酒ができたら持って来なさい」と優しく対応してもらったらしい.宮田酒店が扱うようになったのは,「私たちがやっているお酒の会に参加して勉強してみたら?」と言われたのがきっかけらしい.
  • 藤田社長が日本酒に開眼したのは,勉強のために「満寿泉」に行ったのがきっかけ.
  • 次の杜氏を探すべく,能登杜氏組合に問い合わせて紹介してもらったのが,現在の横道杜氏.現在杜氏は人手不足で探すのは非常に大変で,蔵元の家族が跡を継ぐ例が多くなってきたのだが,彼にとって幸運?不幸?だった(爆)のは,なぜかその時期に限って他の酒蔵からの求人がまったくなかったらしい.数々の有名蔵を渡り歩いた彼としては実績がない蔵は相当不安だったらしく,御祖酒造を初訪問した時には,奥さんに「この話は断ってくるから」と伝えて出かけたらしい(爆)
  • 遊穂」で「生酛」ではなく「山おろし」としている理由は,竹鶴酒造や久保本家酒造のように櫂を使って人手ですり潰さないで,モーターですり潰す秋田式を採用しているために,遠慮して「生酛」と名乗らないとのこと.蔵では,単に「山廃」と言っているらしい.
  • 酵母は協会9号で,大吟醸などは協会10号(名利酵母),協会14号(金沢酵母)も併用して試しているらしい.ただ,協会14号はエステル臭が強く好きではないとか.生産量が少ないので,当面は酵母のバリエーションを増やすことは考えていないそうである.
  • 兵庫県黒田庄山田錦滋賀県産玉栄は,どうも無農薬栽培らしい.
  • 「山おろし」など,「遊穂」の火入れは2年ぐらい熟成させてから出荷するが,小さな蔵で出荷量も多くないから経営的に大変なのに,ちゃんと熟成させる理由は?と聞いたら,藤田社長曰く「そちらの方が美味しいでしょう?」.横道杜氏がいた大門酒造の古酒を呑んだ時に非常に気に入って,そのようなお酒を作りたいと思ったのがきっかけだとか.
  • 蔵で普段呑むのは「ほまれ」の普通酒で,そのためか横道杜氏がかなり張り切って作っているらしい.熟成は2年以上で,「山廃(山おろし?)」も半分近く混ぜているという噂.燗するとやはり普通酒らしさが出てしまうが,冷や(常温)はそれほど悪くないかも.
  • 最近話題のおたまじゃくし現象を知って,喜び勇んで酒販店にFAXしたら,すでにみんな知っていたらしい(笑)そのためか,最近久しぶりに地元で矢追純一を目撃したらしい.
  • 遊穂」のおたまじゃくしラベルは作らないのか?と聞いたら,「出した時にはみんな忘れているから」で却下.ただし,UFOラベルをそのうち出したいという野望があるらしい.
  • 有名な藤田社長直筆の遊穂の裏ラベルは,実は最初の出荷の時に急いで手書きで裏ラベルをでっちあげたところ非常に好評で,それ以来続けているとのこと.「最近新しいアイデアが出なくてマンネリなんです」らしい(笑)合わせる料理にチーズが多いという指摘もあるが,チーズは日本酒と相性が良いという事実に加えて,一人暮らしでチーズをつまみに晩酌することが多い藤田社長の実生活が反映しているらしい.
  • 海外向け遊穂の裏ラベルでも,国内向けと同様に料理とのマッチングが説明されているが,そこに書かれているのはインド料理とタイ料理(笑…海外の業者が書いたものらしく,藤田社長が「さすがにこれは…」と言ったけど,「アメリカのインド料理やタイ料理は日本ほど辛くないんです」と押し切られたらしい).
  • 藤田社長の一押しは火入れ・活水で,これから「日本火入れ党」を組織して(笑)アピールしていきたいとのこと.東京の酒屋は無濾過生原酒に極端に偏っているが,その理由がよく理解できないらしく,「なぜですか?そんなに東京の人は酒が強いんですか?」と聞き回っていた.なお,濁り酒を出さないのは,単に藤田社長が好きじゃないから(もろみを利く時の米粒の感触を思い出してしまうらしい).
  • 遊穂」のお薦めの温度帯は「常温」.開栓して一週間後ぐらいが飲み頃とか.冷蔵庫で冷えている場合には,まず手のひらで杯を暖めたりして,室温に戻してから飲んでほしいとのこと.
  • dancyuに初めて掲載された時には,事前にいろいろな人から「いきなり在庫がすべてなくなる」とか,「電話が鳴りっぱなしになる」とか注意を受けたらしいが,実際には1日に10件程度の問い合わせしかなくて,拍子抜けしたらしい(笑)そこまでの破壊力があったのは,焼酎ブーム前なのかも.
  • 藤田社長は相当の福山雅治ファンらしく,福山雅治の話題が出ると,いきなり態度が変わる(笑)
  • 藤田社長のいとこのT野氏の話をしたら,いきなり「アイツとつきあうのはヤバイ!」と言われる(爆)T野氏の過激な着物姿は,親戚のおばちゃん達には不評だとか(笑)
  • 松の屋で「遊穂」を扱ってくれないのを,どうもちょっと気にしている感じ(笑)
  • 藤田社長は私のブログを時々読んでくれているらしく,よく出てくる「べっしゃん」は前からチェックしていたとか.ちなみに,日本酒の記事よりも,映画の記事の方が面白いと変な褒め方をされた(爆・映画はネタバレしないように,あえてぼやかして書いているのだが…).

今回も非常に楽しく有意義な時間を過ごすことができた.わざわざ遠いところまで来てくれた藤田社長,いつも美味しいお酒と料理を出してくれる別府氏,どうもありがとう!
なお,次回は父親の新盆のために,残念ながら欠席することにしたorz