沈まぬ太陽(MOVIX清水)

山崎豊子原作の,日本のナショナル・フラッグ・キャリア「国民航空(NAL)」を経営者,官僚,政治家がいかに喰いものにしていったか,そしてそれに翻弄された社員の恩地元の物語.映画の最後でくどいくらいフィクションであることを強調しているが,この話を現在の死に体のJALに重ね合わせてしまわない人はいない(爆)JALがこの映画をあれだけいやがるのも,当然だろう.
intermission(休憩)つきの長編映画を劇場で見るのは何十年ぶりだろうか?たぶん,原作が長過ぎることもあって,脚本は多少消化不良の感じがある.映画としてはしっかり作られていて,かなり見応えのある映画で,三時間半の長編映画なのにまったくあきさせない.
映像はきれいで,かつ大胆なカットも多く,美術は細かいところにまで凝っていて,本当に素晴らしい.エンディング・テーマは福原美穂の「Cry No More」で,これもなかなか映画にマッチした曲だと思う.
主人公の恩地元を演じるのは渡辺謙で,非常に素晴らしい演技だ.これに,三浦友和松雪泰子鈴木京香石坂浩二宇津井健などが絡むのだから,素晴らしい豪華なキャストである.恩地の母親役の草笛光子でさえも,ちょい役なのだ!(でも実は行天四郎に息子の復帰を頼み込むシーンが時間の都合で泣く泣くカットされたのではないかと思うが…もしそうならぜひ見てみたい)
特に印象的な演技は,恩地の息子役の柏原崇,飛行機事故の被害者役の木村多江,恩地の後任の労働書記長役の香川照之である.柏原崇は父親と一緒に海外に移住したり,日本国内に戻ってからは父の件でいじめにあったりした,かなり屈折した性格の息子を好演している.木村多江は「日本一不幸が似合う女優」のキャッチフレーズ(?)にふさわしく,飛行機事故で夫を失った未亡人を好演し,彼女の出てくるシーン「だけ」泣けてしまう.香川照之も会社に翻弄される社員の悲しさを見事に表現していた.
この話の細かいところはフィクションでも,経営者・政治家・官僚がJALを喰いものにした結果,現在のような悲惨な状況を招いてしまったことは疑いもない.映画では,飛行機の機体に桜のマークが輝いているが,いつかJALが経営を立て直して,再び栄光の鶴のマークをつける日が来ることを期待したい.