Googleを支える技術〜巨大システムの内側の世界〜

Googleに関する技術情報について,彼らが公開している論文,技術資料,ブログや,ニュース記事をまとめて,そのポインタと概要を示した本.ここまで広範囲に情報を集めたという点で貴重である.

Googleを支える技術 ?巨大システムの内側の世界 (WEB+DB PRESSプラスシリーズ)

Googleを支える技術 ?巨大システムの内側の世界 (WEB+DB PRESSプラスシリーズ)

あえて表ブログに紹介しなかったのは,次の点から.

  • 前半の論文紹介部分では,主要技術を手続き的に詳しく説明することに比重が置かれているようで,重要と思われる記述が言及されていなかったり,勘違いしていると思われる箇所も散見される.だから,詳しく知りたい技術者・研究者は,必ず元の論文を読むべきだし,その方が結局はわかりやすい.そのために,前半の論文紹介部分は一般の人にもわかりやすくはない.あえて論文紹介という形式にこだわらずに,もっと構成を自由にしてわかりやすくした方がよかったかもしれない.
  • MapReduceのような並列分散の話を後ろに持って来ているが,Googleプロトタイプを除けば,Googleは完全に分散並列の概念の元にくみ上げられているので,それを最初に説明した方がよかったと思う.結局,それをしないでGFSやBigtableの説明をしても,肝心な部分はうまく説明できないし,理解してももらえないかもしれない.
  • この本は,「たとえばGFS/Bigtableの良い点を一言で言ってほしい」という質問に答えるものではない.Googleの技術は,車で言えば,特別な技術を使うF1や手作りの特別・高価な部品を使う高級車ではなく,たとえばユーノスロードスターのように,ファミリーカーと同じ部品を使っても,それにスポーツカーという別のコンセプトを与えて,妥協のない良い設計をすれば,まったく異なる凄いものができるというタイプのものである.つまり,使われている技術(特に公開されているものは)今までの計算機科学の範疇を超えるものではないが,大規模テキスト処理という目的と,処理能力・耐障害性・電力消費などの制約条件が与えられた中で,単なる一般的・仮想の目的のための研究では実現できない,鍛えられた特別なシステムが育っているのである.単なる概要紹介に留まらずに,その特徴や違いまで踏み込んで欲しかったと思うのは欲張りか?