某シンポジウム二日目

さすがに二日目からの参加者はほとんどいないために,受け付けや事務の一部を学生アルバイトにお願いして,招待講演や発表をかなり聞くことができた.
T田氏の「M?zilla F?refox にみるオープンソースの可能性」というタイトルの講演は非常に興味深い内容であった.彼女は,なんとSpyg?ass時代(←今の若い人は知らないよね…)から!,N?tscape社→A?L社と在籍し,現在M?zilla Japan代表理事という凄い経歴で,Webブラウザの発展にずっと関わって来た人である.その彼女だから,けっこうとんでもない内容を喋っていた(ここでさえも書けないこと多し(爆))
まず,M?zillaのオープンソース化は比較的一番まずい時期におこなわれたらしい.私がN?tscape社に行った時に,開発は3バージョン並行に行われているということにびっくりしたのだが,やはりそれでは無理があったのか,開発プロジェクトは混沌を極め,プロダクトがなかなか完成しない状態に陥っていたらしい.そこをいきなりオープンソース化したものだから,プログラムは未完成で,ソースは汚く,公開してもなかなかコンパイルできない状態だったらしい.N?tscapeにしても製品がまったく出ない状態を何年も維持はできないということで,「とても使えないバージョン」を出荷したりしたのだが,それをちゃんと動く形で持って行くには相当な苦労があったに違いない.
なお,講演終了後にT田氏に声を掛けたら「十五年ぶりですかね!」(爆)と言われてしまった.彼女は昔からの戦友みたいなもので,J?vaの黎明期に一緒に活動したことがあり,その後彼女の活躍を横目で見て来たのであった.今回,特に気になっていたのが「オープンソースプロジェクトにおけるイノベーション」の話.彼女の話でもあったが,プロジェクトの意思決定は自立的であり,明確に制御できる人がいないために,いくら良いアイデアであっても少数意見が通らないことが多いし,コードが肥大化しやすい.つまり,加算的・漸次的・継続的な進化はおこなえても,明確な強い意思決定が必要になる減算的・革新的・破壊的なイノベーションはほとんど不可能であるということである.そこで唯一有効な方法は,新しいプロジェクトを作ること(盛り上げること)である.これにより,人間関係が一新され,組織はコンパクトになり,特定少数の意見が通りやすくなり,コードをクリーンアップできる.この場合,ソースは継承されても継承されなくてもどちらでもよく,人間関係が一新されることが重要なのである.また,この移行により,肥大化したソースや機能が,その時代に合った新たな審査基準の下で整理されるのである.実際にWebブラウザを見ても,M?zilla→F?refox→W?bKitと移り変わって来た歴史がそれを物語っているだろう.
なお,彼女によると,オープンソース開発モデルは去年ぐらいから破綻しかかっているらしい.その原因は,開発者とユーザのバランスが崩れたことにあり,現在はユーザの比重が極端に増えてしまっている.しかも,オープンソースにとってNew Commerであるために,その本質を理解しないで「金も出さないし,労力は提供しないが,口は出す」人達が増える傾向にあり,プロジェクトや開発者が日々の生活の糧を得る活動を非難し,一方的に献身的なサポートを要求するのである.彼らは「自分にとって便利なソフトウェアを自分のために無償で献身的に作ってくれるもの」としか考えていないようで,実際に今そのような人達をいろいろなところで見かけるようになってきた.確かにこれは善意によって支えられているオープンソース開発モデルを脅かすかもしれない.