一献の系譜(シネ・リーブル梅田)
以前から見たかった能登杜氏四天王とその周囲を描いたドキュメンタリ映画「一献の系譜」がいつの間にか大阪で上映されているのを教えてもらって,早速見に行った.
私が本格的に日本酒にハマったのは,就職のために上京した直後に大岡山の「正ちゃん」(約10年前に閉店)で「菊姫」と「天狗舞」の吟醸酒を呑んでカルチャーショックを受けたからである.その後,でじゃさんの紹介で静岡の出品酒を呑む会にも何度も誘ってもらったが,波瀬正吉杜氏が醸す「開運」の大吟醸は明らかに別格であった.彼らの醸す酒はケバさはないのに気品があり,熟成させると味が乗り,お燗するとさらに旨い.そのような日本酒を生み出した偉人のことを知りたいと,以前から注目していたのである.
映画では,淡々と能登の自然と酒造りを描いていく.酒造りや人間関係についてのナレーションは非常に少ないので,日本酒に馴染みがない人はとっつきやすい反面,あまり事情に詳しくない呑み手は頭の中が疑問符だらけになるかもしれない.何しろ,今どこの酒蔵の映像が流れているかすら,説明しないのである(爆)だから,見た後の復習は必要であり,久しぶりにパンフレットを購入してもみた.
なお,今の和歌山は杜氏が急速に若返っているが,その中でも「車坂」(吉村秀雄商店)の藤田晶子杜氏,「黒牛」(名手酒造店)の岡井勝彦杜氏,「南方」(世界一統)の武田博文杜氏が能登杜氏である.藤田杜氏は農口杜氏の愛弟子の代表として,かなり長時間取り上げられている.なお,能登杜氏勉強会で,岡井杜氏は若手の代表として2秒ほどクローズアップされ,武田杜氏は2回ぐらい写っていたようである.
非常に残念なことは,関東ではあれほど日本酒関係者や愛好家に情報が流れていたが,大阪では当初一週間の上映だったのに,どの店もほとんど情報を知らなかったことである.あれほどクローズアップされた吉村秀雄商店のメーリングリストにもこの話題は流れなかったし,岡井杜氏も武田杜氏も大阪の上映を知らなかったのである.この映画のことを知っていれば,大阪でも多くのお客が詰めかけただろうに,見逃がさざるをえない状況だったことは,とても残念である.
最後に,今後酒造りがどう変化していくかわからないが,能登杜氏四天王の足跡がこの世界から失われてしまう前に,それを継承していく人達との関わりという形で映像化できたことは素晴らしいと思う.