クワイエットルームにようこそ(渋谷・シネマライズ)

女子だけの閉鎖病棟の中の世界を描いた映画.監督が松尾スズキということで,「恋の門」のようなアバンギャルドな映画だと思って甘く見ていたのだが,以前とまったく異なり非常にまともな映画.「カッコーの巣の上で」が頭の中にあったようだが,あれとはテーマが対極的で,人間の内面に存在する落とし穴を描いたと言えるかもしれない.映画の最初では笑いが起こるものの,だんだんと引き込まれてしまう.特に,主人公の明日香の主観的な世界と,その同居人の鉄が見ていた客観的な世界を対比させながら描くあたりが凄い.
さて,主演の内田有紀は映画にはそぐわない…というのは,彼女は気骨のある女性だと思うので,明日香のような役は想像できなかったのだ.しかし,そのミスマッチこそがまさに監督の狙いだったらしく,誰でもこういうことが起こりえるということを描きたかったらしい.さて,今回素晴らしかったのは,鉄役の宮藤官九郎とミキ役の蒼井優松尾スズキは最初から宮藤官九郎を念頭に置いて放送作家の鉄役を作ったそうだが,それだけでなく明日香を相手にして苦悩する男を見事に演じていた.蒼井優は,摂食障害の女性という設定で体重を落としたために凄絶な美女になっているが,冒頭を見た限りではキワモノ的な役なのかと思っていた.しかし,後半になるとシナリオの良さと本人の演技力があいまって,思わず涙してしまった.今回この二人がずばぬけていたが,それ以外の役者も良かった.冷酷なナース江口役のりょうは,自分で「ドS顔」というだけあってはまり役.妻夫木聡は,鉄の子分の陽気なパンクスのコモノを演じたが,その軽薄ぶりといい,転倒した時の倒れっぷりの良さといい,彼が単なる二枚目俳優ではないことを証明してくれた.重いこの映画に華を添えてくれたのが平岩紙で,前から好きだったが,この映画でもかわいさを存分に発揮してくれた.「ユキポンのお仕事」のように,彼女が主演のドラマがもっとあればいいのに.
というわけで,これは良い映画だと思う.ただし,「カッコーの巣の上で」のような強いインパクトではないが,見終わった後に,男女の心のなかに,それぞれ別の考えねならないことを残してくれると思う.