それでもボクはやってない(アミューズCQN)

以前からずっと見たかった周防正行監督の痴漢冤罪事件の映画.最近の富山でのとんでもない冤罪事件に注目した人も多いだろうが,満員電車で通勤していて,完全に潔白なのに女性に睨まれた経験がまったくない男性はいないだろう…つまり,まさにいつ自分が同じ目に会うとも限らないのだ.

この映画では,裁判の進行を淡々と描いている…各登場人物の人間としての背景にはほとんど触れないが,その分恐怖感がじわじわと迫ってきて,映画に引き込まれてしまう.さらに,俳優がいい.「硫黄島からの手紙」で好演した加瀬亮,山本耕司,鈴木蘭々などの若手に加えて,ベテラン陣は役所広司小日向文世尾美としのり,増岡徹,田山涼成もたいまさこ清水美砂瀬戸朝香などのよだれが出そうな面々.特定個人が目立つようなことはないが,配役に一切の妥協がみられず,すべての役者の役柄に的確に合った演技のおかげでじっくり見せてくれる.特に正名僕蔵の演技が非常に光っていたと思う.

この映画には専門用語が沢山出てきたり,背景知識が必要なのだが,それを教えてくれる人をさまざまな個所に登場させている点が面白い.たとえば,留置場における本田博太郎は爆笑ものであった.

この映画は痴漢冤罪という,いつ自分の身に降りかかるかもしれない恐怖が襲ってくる一級のホラー映画であり,証拠が一切ない状態…いや無罪の証拠がある状態でさえも,単なるノルマとメンツのために99.9%の確率で有罪にしてしまう現在の警察と司法の問題をえぐりだしている一級のドキュメンタリーでもある.男性はぜひ見るべし.