グラン・トリノ(T・ジョイ大泉)

クリント・イーストウッドが監督だけでなく主演もしている作品.地方都市の小さな範囲だけで起こる古いアメリカの男の物語だが,とにかく素晴らしくよく練られた脚本.父と子,ベトナム戦争少数民族自動車産業の衰退など,多くの問題をうまく取り上げている.
なお,いつものクリント・イーストウッド作品のように登場する役者達が素晴らしい.今回はモン族に焦点を合わせているのだが,そもそも俳優登録しているモン族はほとんどいないそうで,隣の家族の弟のタオ・ロー役のビー・ハン,姉のスー・ロー役のアーニー・ハー共に完全な新人だが,非常に魅力溢れる演技をしてくれる.祖母役のチー・タオは英語が話せず,モン語の台詞は脚本にほとんど書かれていないために大部分がアドリブだったそうだが,これまた素晴らしい存在感を発揮してくれる.
エンディングで主題歌の前半部をしゃがれた声で歌うのは,クリント・イーストウッド自身ではないかと思うのだが,これがまた素晴らしい.
なお,この映画の主役ウォルト役は亡き父の面影とさまざまな点で重なる(父は中島飛行機の技術を受け継いだ富士重工の車をずっと誇りを持って乗り継いでいたのである)が,同じように思う人も多いかもしれない.ちょっと頑固で子供との対話が下手な父親を持つ人は,ぜひ見に行ってみるとよいかもしれない.
なお,プログラムも購入したのだが,とにかく有名人達がこの映画でなく,今までのクリント・イーストウッド作品への思い入れをウザく語りすぎていて最悪.私は,この映画のクリント・イーストウッドについて聞きたいのであり,素晴らしい演技をしてくれたモン族の俳優について知りたいし,この映画で象徴的な存在であるフォードのグラン・トリノを見たいのである.あなた方の自己満足のためにお金を払っているわけではないのだ.