カイ燗+にほん酒やプレゼンツ・藤波良貫杜氏 生酛説法(Cafe Bar BLOOMOON・吉祥寺)

吉祥寺「カイ燗」店主の小倉氏と「にほん酒や」店主の高谷氏らにより,寺田本家の藤波良貫杜氏による「生酛説法」が開催された.受付は,あの武蔵関「大塚屋」の京子さん!

これは集められた寺田本家の日本酒を味わいながら,藤波元杜氏の半生や寺田本家における日本酒造りについて聞くという素晴らしい会である.50人募集したのだがすぐ定員になったそうで,店は満員状態だった.当然,回りは見たことあるような人ばかりである.
この会は小倉氏の司会だった.

藤波杜氏が出て来て,開口一番寺田本家の23代目当主の寺田啓佐氏が4月18日に亡くなられたということを告げられた(現在は寺田本家のホームページにお知らせが掲載されている).

用意されたお酒は以下の通り.

  • むすひ 発芽玄米酒 麹米:コシヒカリ・掛米:コシヒカリ(100%)(千葉・株式会社寺田本家)
  • 醍醐のしずく 菩提酛仕込み(90%)(千葉・株式会社寺田本家)
  • 自然酒 五人娘 生酛 自然米(70%)(千葉・株式会社寺田本家)
  • 香取 なんじゃもんじゃ 純米80%無濾過生原酒 生酛 千葉県産亀の尾(80%)(千葉・株式会社寺田本家)
  • 香取 純米自然酒80 生酛 自然米コシヒカリ(80%)(千葉・株式会社寺田本家)
  • 香取 純米自然酒90 生酛 自然米コシヒカリ(90%)(千葉・株式会社寺田本家)

藤波杜氏にはいろいろなことを話してもらったが,特に印象的な言葉を以下にメモしておこう.

  • 足立区の農家生まれ.それが元で福岡正信氏の自然農法に興味を持った.
  • 太宰治夏目漱石芥川龍之介の小説が好きで,それで駒沢大学仏教学部禅学科に進学した.なお,実は東京農大も受験していたらしい.
  • 大学1年で出家し,卒業後に寺で修行してから,熊野本宮町のお寺の住職になり農業もはじめた.この時に造ったどぶろくでお酒造りに嵌ってしまった.
  • 平成14年度から寺田本家で酒造りを始めた.当時は「五人娘」が寺田本家で一番有名なお酒で,「自分は子供を作らないので,お酒で五人の娘を造ります」と言ったらしい.
  • 「むすひ」の名前は「カタカムナ文献」から命名されている.発芽玄米を発酵させた,故寺田社長の念願のお酒である.玄米は発酵力が強いので,低アルコールにするのに苦労した(故寺田社長は下戸らしい).
  • 「むすひ」は故寺田社長が周囲に「日本一まずい酒」と紹介していた.しかし,杜氏としてはその言葉に耐えられず,かなり味を良くする努力をした.
  • 故寺田社長も藤波杜氏も生酛純米酒を望んでいた.そこで全量純米するにあたって,本醸造は8割精米,普通酒は9割精米の「香取」の生酛純米酒になった.最初はモーターでもと摺りを行う秋田流生酛だったが,その後人間が櫂でもと摺りをするようになった.
  • 生酛造りにして酒造りの期間が長くなり,地元の人達に人気があった酒粕が年末に間に合わなくなった.そこで,気温が高くても安全に酛が造れる菩提酛仕込みを故寺田社長に提案して開始した.「醍醐のしずく」は菩提酛の一段仕込み,「五人娘」は菩提酛の三段仕込み.
  • 「亀の尾」で仕込んだのが「なんじゃもんじゃ」.亀の尾で仕込むと端麗になりやすいが,寺田本家らしい味が出ていると,あの農口杜氏に褒めてもらった.
  • 酒米に関する考えが社長と杜氏で異なり,故寺田社長はとにかく自然なお米,普通に食べているお米に拘ったが,藤波杜氏は良い酒米を使ってもっと美味しいお酒を造りたかったらしい.そこで探し出した地元産の酒米が「神力」で,もしかするとそのうち発売されるかもしれない.
  • 酒造技術者は腐造を避けるためには発酵を単純にした方が良いと考えて,酒造りに手を加えすぎてしまい,しかも機械化してしまった.そのために味が単純で端麗になってしまった.しかし,発酵は複雑でないと味が出ない.特に乳酸発酵をしていないお酒はお酒じゃない.
  • 生酛造りでは,一旦アルファ化した酒米をベータ化するために,半切桶で擂り潰している.
  • 生酛造りでは,最初は硝酸還元菌,次に乳酸菌,次に酵母が繁殖していく.
  • 生酛の起源として石川杜氏は阿波番茶説を唱えているが,藤波杜氏は紅茶もありえるのではないかとのこと.文献で検証したわけではないが,自分で造ってみたら結構似ていたそうである.
  • 楽しさとは,まず一生懸命になれることで,次に人のためになれることだと思う.自分にとって,人に美味しいと言ってもらったどぶろく造りは,まさにそういうものだった.

最後に,「これらは社長と共に作って来たお酒です」という言葉で締めくくった.とても書けない話も多かった(爆)が,なかなか素敵な会だった.この会を運営してくださったみなさん,どうもありがとうございました.