高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院(水月昭道)

M林氏のブログで紹介されていたので,関連する本と一緒に購入してみた.

高学歴ワーキングプア  「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

内容としては,M林氏や私はすでに知っているような例ばかりだが,知らない人は一度は読んだほうがよい.たとえば,これから大学院に行こうとする学生.実際に,教授に勧められたからと身分保障もなしに大学院に進もうとする文系大学生(何度も進学すると大変だからと注意したのに,本人はお気楽に考えていたけど,どうなったのだろうか?)がいた.さらに,この本でも挙げられているように,進学するならレベルが高い研究系大学院に行かないと,後で研究者として生きていく望みがほとんどなくなってしまうということは絶対認識しておくべき.また,企業から大学に転職しようとしている人も読むべきだろう.現在,首都圏の大学の公募は倍率が100倍ぐらいになることは普通のようだが,この理由として企業からの転職希望者が非常に多いこともあるのではないかと思っている.たとえば,そのうち弊社がニ〜三割占めているという噂もあるくらいである(苦笑).しかし,話をしてみると,一年ですぐ見つかるとか安易に考えていたり,応募する大学のレベルを非常に高く設定しているような,現状認識が甘く「本当にこの人大丈夫かな?」と思ってしまうような人が多い.こういうことは実際に活動して過酷な状況を体験しない限りは認識できないだろうけど,それでもこの本を読んでおけば,今どんな過酷な状況になっているかが少しはわかると思う.
なお,この本で注意すべき点は,一つは文系大学院の話で,理系大学院の話ではないので,理系の読者にとっては若干状況が違うということ.もう一つは,(それゆえに?)ネガティブな視点からしか描かれていないこと.たとえば,論文を一回リジェクトされただけで行方不明になってしまう話が書かれているが,さすがにこれは本人の精神的な弱さの問題だと思う.確かに査読で問題のあるケースはよく見受けられるけど,どんな場合も問題のない環境というのはありえないし,よい論文なら他の論文誌に出せば簡単に採録されるはずだからだ.また,理系大学院の場合には,きびしくてもこうすれば研究者として生き残ることができるという道はあるが,そういうポジティブな視点からは書かれていないので,生き残り対策には使いにくいことだ.なお,読みたい人には,後から紹介するもう一冊を一緒に貸すので,連絡して欲しい.
最後に,実際の公募では研究力,教育力,政治力も必要だが,実はなにより本人の性格が重要なことが多いと聞く.というのは,トラブルメーカーを一旦入れてしまった時に簡単に辞めさせるメカニズムが大学にはないからである.この著者はこんな本を書いてしまって,無事次の職が得られたのだろうか?