第4回 酒べ会 黒牛(東伏見・居酒家べっしゃん)

第4回目の酒べ会は,名手酒造店の代司(但馬杜氏では,麹作り担当をこう呼ぶ)の岡井氏を招いての黒牛の会.「黒牛」は純米専用のブランドで万葉集に出てくる酒蔵の近くにあった牛に似た石についての歌にちなんでいるそうである.アル添酒は「一掴(ひとつかみ)」という別ブランドになる.また,和歌山は米所ではないので,山田錦,五百万石,美山錦を他県から購入して使っているようである.
料理は,いかの煮物,蒲鉾の薫製,おまかせパレット(長崎のカンパチ,神奈川の〆鯖,静岡の目鯛,石川の鰤,北海道の蛸,和歌山の太刀魚,近海鮪,大阪の水茄子,鹿児島の鶏の叩き),たたみいわし(私のおみやげ),ちまき,味噌汁.
お酒は次の7種類.ほとんどが斗瓶囲いで,出荷されないものも多い.基本は冷酒だが,一通り味わった後に別府氏に声を掛けようとすると,こちらの要求を察していてお燗して出してくれる.また,岡井氏には一割ほどのお湯で割る「お湯割り」(アルコール度数が少し低い常温の酒になる)という飲み方も教えてもらったが,これも面白い.1はかなりきれいな酒だが,あまり黒牛らしくない.他は,いかにも黒牛らしい独特の風味があり,特にいかの煮物に抜群の相性を見せた.その中でも良いと思ったのは4番目と6番目の熟成系.7番目の14BYはさすがに生老ねの風味があったが,これもお燗してみるとブルーチーズなら合うかなと思えてくるのが面白い.ただ,基本的に少量をゆっくり味わうもので,がんがん呑むものではなく,別府氏が用事があって遅くまでやらなかったこともあり,結構酒が残っていたようである.
今の日本酒にとって重要なのは,ワインやビールのように食べ物と合わせて普段から呑むタイプの旨い酒を作ることだと思う.一本一万円で上品な良い大吟醸酒を作っても,今の若い人達には手が出ないし,そもそも食中酒としては使えないことが多い.それでは日本酒文化が廃れて行くだけだろう.そういう点では,普段の食事に合わせて呑める手頃な値段でまっとうな純米酒がより充実することに期待したい.

  1. 黒牛 純米大吟醸斗瓶囲い生 兵庫県山田錦(35%) 9号系酵母 19BY(和歌山・株式会社名手酒造店)
  2. 黒牛 純米吟醸中取り 生原酒 兵庫県山田錦(50%)  9号系酵母 19BY(和歌山・株式会社名手酒造店)
  3. 黒牛 純米吟醸斗瓶囲い生 兵庫県山田錦(50%) 9号系酵母 18BY(和歌山・株式会社名手酒造店)
  4. 黒牛 純米吟醸斗瓶囲い生 兵庫県山田錦(50%) 9号系酵母 16BY(和歌山・株式会社名手酒造店)
  5. 黒牛 純米斗瓶囲い生 麹米:兵庫県山田錦(50%)・掛米:五百万石(60%) 9号系酵母 18BY(和歌山・株式会社名手酒造店)
  6. 黒牛 純米斗瓶囲い生 麹米:兵庫県山田錦(50%)・掛米:五百万石(60%) 9号系酵母 15BY(和歌山・株式会社名手酒造店)
  7. 一掴(ひとつかみ) 大吟醸斗瓶囲い生 兵庫産山田錦(35%) 9号系酵母 14BY(和歌山・株式会社名手酒造店)

さて,この日はあめふらしの夜の人と道で合い,幸運にも隣の席だったので,彼が今度引っ越した大泉学園周辺の話をする.ある蕎麦屋の話をしていたら,突然別府氏が割り込んで来て,そこはお気に入りだから秘密にしていたのに…と言われる.他の蕎麦屋の話でも盛り上がり,さすがにカウンターに座るここの常連達には蕎麦好きが多いようである.